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ビジネスに応用できる心理学の理論として、「マズローの欲求5段階説」があります。コンサルタントやマネージャーなど、従業員を管理する立場の人におすすめの理論です。
さらに、マーケターや営業といった顧客のニーズを分析する職種にも役立つでしょう。この記事では、マズローの欲求5段階説についてわかりやすく解説します。
マズローの欲求5段階説とは
マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求を5段階に分けた理論です。アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが提唱しました。当理論によれば、人間は1段階目の欲求が満たされると、さらに上層の欲求を満たそうと成長するとされています。人間の欲求を段階的に理解できる点から、マーケティングやマネジメントに広く用いられています。
1943年の論文「A Theory of Human Motivation」が発祥
マズローの欲求5段階説は、1943年の論文「A Theory of Human Motivation」にて初めて提唱されました。その後、マズローは「Motivation and Personality」を出版し、欲求5段階説を詳しく扱っています。日本では訳本「人間性の心理学」が出版されており、ビジネス書としても活用されています。
人間性心理学の代表的な理論
学問におけるマズローの欲求5段階説は、人間性心理学(ヒューマニスティック心理学)に分類されます。人間性心理学とは、人間には主体的かつ自由な意思があり、自己実現のために成長する存在だと考える学問です。なお、人間性心理学の登場前は、無意識を重視する「精神分析」や、人間の行動を重視する「行動主義心理学」が主流でした。
マズローの自己実現理論(Maslow’s hierarchy of needs)との違い
マズローの「自己実現理論(Maslow’s hierarchy of needs)」とは、欲求5段階説の別称です。他にもさまざまな名称があり、たとえば「マズローの法則」「欲求階層説」「欲求ピラミッド」と言われています。
マズローの欲求5段階説の階層とは?図形で確認
多くの場合、マズローの欲求5段階説は、ピラミッドの図形で示されます。注意点として、ピラミッド図を提示した人物はマズローではなく、後続の解説者とする見解が一般的です(※1)。マズローの欲求5段階説の階層は、次の段階に分かれています。
- 生理的欲求
- 安全欲求
- 社会的欲求(親和欲求)
- 承認欲求(尊重欲求)
- 自己実現欲求
人間は、低層の欲求から順番に満たしていくとされています。
※1 参照:Learning, Teaching and Leadership「Maslow’s Hierarchy of Needs – Is the pyramid a hoax?」
生理的欲求
1段階目の生理的欲求とは、人間の生命維持に必要な活動を求める欲求です。睡眠欲・食欲・排泄欲といった本能的な欲求が当てはまります。生理的欲求のみで心が満たされる人間は少なく、多くの人は高層の欲求を求めます。
安全欲求
2段階目の安全欲求とは、心身ともに安心して生活できる環境を望む欲求です。具体的には、以下のような願望が当てはまります。
- 経済的に安定するための賃金
- 精神的なストレスがない環境
- 暴力・事故・災害に遭うリスクの低さ
- 健康状態の維持
- 社会福祉の充実
こうした願望は、ほとんどの人が無意識のうちに望んでいるでしょう。
社会的欲求(親和欲求)
社会的欲求(親和欲求)とは、「地域社会や会社、学校などのコミュニティに所属したい」「友人や家族、恋人と関わり受容されたい」といった3段階目の欲求です。「帰属欲求」や「愛と所属の欲求」とも呼ばれます。他者との関わりが薄れて社会的欲求が満たされない場合、孤独を感じるでしょう。うつ病などの心の病気を患う恐れもあります。
承認欲求(尊重欲求)
4段階目の承認欲求(尊重欲求)とは、他人から自分の才能や存在を認められたいと思う欲求です。他者からの注目や賞賛を求める「低位の欲求」と、高度な技能の習得で自身を評価する「高位の欲求」に分かれます。承認欲求を満たすことで、他者に対する劣等感が消え、自信が生まれます。また、仕事や勉学の原動力にもなる欲求です。
自己実現欲求
人間が最終的に到達するとされている願望が、5段階目の自己実現欲求です。自己実現欲求とは、理想の自分になりたいと願う欲求です。「幸せな家庭を築きたい」「仕事で成功したい」「趣味に没頭してマイペースに生きたい」など、人によって理想像は大きく異なります。
マズローの欲求5段階説のさらに上層はある?
マズローの欲求5段階説は、6段階や7段階があるとする場合があります。どのような階層があるのか見ていきましょう。
6段階目「自己超越の欲求」
マズローは、晩年に6段階目の欲求として「自己超越の欲求」を付け加えました。自己超越の欲求とは、自分への見返りを求めず、社会に貢献したいと思う欲求です。「慈善団体への寄付」「環境保護への主体的な行動」といった取り組みが該当します。
「7段階の欲求」とする場合もある
マズローは、著書「人間性の心理学」にて、前述の5段階を「基本的な欲求」としました。さらに、基本的な欲求から独立した概念として、「審美的欲求」と「認知欲求」の2つを提唱しています。これら2つは基本的欲求の上層にあるわけではないものの、合わせて「7段階の欲求」と呼ぶこともあります。
マズローの欲求5段階説の性質による分類
マズローの欲求5段階説は、求める対象や動機といった性質によって次の3つに分類できます。
- 欠乏欲求または成長欲求
- 外的欲求または内的欲求
- 物質的欲求または精神的欲求
なお、6段階目の自己超越の欲求や、独立した欲求は含まれません。
欠乏欲求または成長欲求
欠乏欲求とは、自分にないものを求める願望です。そのため、生理的欲求から承認欲求
までの4段階の欲求が含まれます。対する成長欲求は、欠乏していたものを満たした上で、さらに自己を高めるための欲求です。したがって、自己実現欲求のみが当てはまります。
- 欠乏欲求:生理的欲求〜承認欲求
- 成長欲求:自己実現欲求
外的欲求または内的欲求
外的欲求とは、自分の外側に存在する環境を満たそうとする欲求です。ゆえに、生理的欲求から社会的欲求までの3段階が該当します。承認欲求と自己実現欲求を指す内的欲求は、自分の内側に存在する心を満たすための欲求です。
- 外的欲求:生理的欲求〜社会的欲求
- 内的欲求:承認欲求、自己実現欲求
物質的欲求または精神的欲求
生理的欲求と安全欲求は、物質的欲求に含まれます。物質的欲求とは、食料や安全な家などの目に見える「モノ」を手に入れたいと思う欲求です。一方、社会的欲求から上層は、精神的欲求に分類されます。精神的欲求とは、目に見えない「気持ち」を満足させるための欲求です。
- 物質的欲求:生理的欲求、安全欲求
- 精神的欲求:社会的欲求〜自己実現欲求
マズローの欲求5段階説の仕事への活用例
マズローの欲求5段階説は、さまざまなビジネスへ活用できます。具体的な活用例として、以下3つを見ていきましょう。
- インナーブランディングやマネジメント
- マーケティング戦略の構築
- 看護・介護の現場
順番に解説します。
インナーブランディングやマネジメント
社員のモチベーションを保つための方法として、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求の3段階の充足が基本です。安心して生活できる充分な報酬に加え、ハラスメント防止や福利厚生の充実が求められます。また、社員と適度にコミュニケーションを取ることで、社会的欲求を満たせられます。加えて、適切な評価や昇進、表彰制度を実施すれば、4段階目の承認欲求も充足させられるでしょう。
マーケティング戦略の構築
マズローの欲求5段階説を自社の商品やサービスに当てはめると、マーケティング戦略を立てやすくなります。たとえば、賃貸経営であれば、以下のように顧客のニーズは段階的に変化します。
- とりあえず寝食できる安い家に住みたい
- セキュリティや構造が安全な家に住みたい
- 家族と居心地良く過ごせる家に住みたい
- 他人に自慢できるようなおしゃれな家に住みたい
- 自分らしい暮らしができる家に住みたい
このように各層のニーズを把握することで、効果的なマーケティング戦略を構築できます。
関連記事:マーケティングコンサルタントになるには? 仕事内容や年収、転職方法を解説
看護・介護の現場
マズローの欲求5段階説は、看護や介護といったホスピタリティの現場でも活用されています。「入居者や患者が今何を望んでいるのか」「何が満たされていないのか」を考えることで、最適なケアの選択が可能です。入居者や患者の自己実現欲求の充足を目指すことで、より良いホスピタリティを提供できるでしょう。
マズローの欲求5段階説の注意点
マズローの欲求5段階説を活用する際は、下記3つのポイントに気をつけましょう。
- 理論への批判意見もある
- 人による価値観の違いを理解する
- 欲求に優劣はない
それぞれの注意点を説明します。
理論への批判意見もある
マズローの欲求5段階説は科学的根拠が薄いと論じ、信ぴょう性を疑う批判意見が存在します。実際、すべての人の欲求に必ず当てはまるといった根拠はないため、ビジネスに応用する際は柔軟な姿勢が大切になります。
人による価値観の違いを理解する
同じ段階の欲求であっても、人によって具体的な欲求の内容や度合いは異なります。企業の例であれば、従業員によって社会的欲求の度合いは違います。仕事中の会話だけで充分と思う人もいれば、業務時間外にも交流したいと思う人もいるでしょう。画一的な対応はせず、従業員ごとの価値観の違いを理解することが重要です。
欲求に優劣はない
マズローの欲求はピラミッド型で説明されるケースが多いですが、上層の欲求が尊いわけではありません。同じ仕事であっても、「お金のために働く人(安全欲求)」や「自分らしい生き方のために働く人(自己実現欲求)」がいます。ピラミッド型で考えると自己実現欲求を満たそうとする人のほうが、優れているように思うかもしれません。しかし、マズローの欲求はあくまで段階に過ぎないため、人の優劣を計る指標ではない点に注意が必要です。
マズローの欲求5段階説を学べる本は?
アブラハム・マズローの著作のうち、欲求5段階説に関連する書籍は以下の3冊があります。
- 人間性の心理学
- 完全なる人間
- 完全なる経営
本の概要を簡潔に紹介します。
人間性の心理学
「人間性の心理学(原題:Motivation and Personality)」は、マズローの1冊目の著作です。人間の動機づけや欲求5段階説について詳しく解説しているため、まずは本書から読んでみてはいかがでしょうか。
完全なる人間
「完全なる人間(原題:Toward a psychology of being)」は、人間性の心理学の続きとなる書籍です。自己実現について深く掘り下げられており、「至高体験」や「創造性」といった自己実現を作る要素を学べます。
完全なる経営
「完全なる経営(原題:Maslow on Management)」は、マネジメント理論を中心に経営論について解説した本です。人間の欲求階層ごとの経営管理など、欲求5段階説をもとにした理論が記されています。
マズローの欲求5段階説とは?まとめ
マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求レベルを5つに分けた理論です。マーケティングや営業、従業員のモチベーション維持・管理など、ビジネスの多くの場面で活用されています。ただし、人による価値観の違いは大きいため、従業員や顧客ごとの欲求の違いへの配慮が必要です。マズローの欲求5段階説を柔軟に活用することで、マネジメントやインナーブランディングの質を向上できるでしょう。
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